日本専門医機構が7月20日の理事会で19基本診療領域のすべてについて、新専門医制度のスタートを「2018年度を目途にいっせいにスタート」させる方針を確認。25日の社員総会で正式に決定しました。報道によると「ここは一度立ち止まって、国民や地域の方々の懸念を払拭できるよう、機構と学会が連携して問題点を改善し、2018年度を目途にスタートできることをめざす。2017年度については、研修医や国民の混乱を回避するために、各学会に責任を持って制度を運営してもらう」(吉村博邦機構理事長)とのこと。
ただし、新たに基本診療領域に位置づけられる総合診療専門医については、「既存の学会はないので、日本専門医機構の正式な運用としては差し控える。ただし、研修医の混乱を回避するために、新たな方策を考え、暫定的な試行について検討したい」としています。
各領域の新研修プログラムが明らかになるにつれ、指導医数や症例数、あるいは必要症例等のハードルの厳しさから、大病院への医師集中をはじめ、地域医療への影響を懸念する声が噴出し、国が「専門医養成の在り方に関する専門委員会」を設置、機構の理事会メンバーも変わりと、紆余曲折を経ながら、機構自身が1年延期を決断するに至ったということになります。
地域が抱える医療問題の内容や、提供体制の課題は多種多様です。医療にかかわる仕組みを、プロフェッショナルオートノミーで、なおかつ患者さんや市民の医療保障の前進を図る形で作り上げることの難しさをあらためて感じる経過といえるでしょう。
さらに注視せねばならないのは、もしも機構の方針通り、2018年度から「新専門医制度」が実施されるとすれば、新たな都道府県医療費適正化計画、都道府県医療計画、介護保険事業計画、国保都道府県化等の「医療・介護総合確保推進法」で決められた医療制度改革と同時実施となることです。
国は「新専門医制度」や「医療従事者需給推計」をめぐって、地域偏在解消を建前に新たな医師規制策(保険医定数制や自由開業制見直し)の導入に向けた動きを進めています。
専門医の在り方問題は、医師養成の在り方、医師の在り方の問題です。同時に患者さんへの医療保障に直接かかわる問題でもあります。その在り方が、国の医療費適正化(=抑制)路線に呑み込まれることがあってはなりません。国民皆保険制度の下、地域の医療者が果たしてきた役割、保険でよい医療と医業を実践し続けてきた現場の声を、大きくあげていくときです。今後も協会はその役割を果たしていきたいと思います。
10月9日~10日に、京都市・京都国際会館で開催される医療研究フォーラムでも、「保険で良い医療」を実現する医療実践について考えるをテーマに、大いに語り合いましょう。
メールマガジンWeb保険医通信 第599号 2016年8月5日発行より